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冠動脈に有意な狭窄の無い狭心症や心筋梗塞


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冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血(INOCA)、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)

当院では2023年9月より冠動脈閉塞を伴わない狭心症の精査として、微小循環障害(CMD:coronary microvascular dysfunction)、冠動脈攣縮の検査を積極的に行っています。
CMDの検査を可能としている医療機関は全国にわずかしかなく、2024年4月現在CMDの検査実施可能施設は都内でもごくわずかであり、循環器専門医の間でもこの疾患についての情報や知識はまだまだ不足しているのが現状です。葛飾区周辺でもこの検査を施行できるのは当院以外、ほぼございません。(2024年4月現在)
今までに心臓カテーテル検査や冠動脈CTを行っても冠動脈に狭窄なく、狭心症ではないと考えられるも胸部症状が改善せずにお困りの方や、心筋梗塞の診断で心臓カテーテル検査を行うも冠動脈に狭窄なく心筋梗塞となった原因診断がついていられない方が多くいらっしゃると思います。そのような方々の検査に関して御力になれれば幸いです。
以下に冠動脈閉塞を伴わない狭心症(INOCA:ischemia with non-obstructive coronary artery)、非閉塞性冠動脈疾患に伴う心筋梗塞(MINOCA:myocardial infarction with non-obstructive coronary artery)に関して簡単な説明を行っていますので、ご一読いただき気になる方がいらっしゃいましたら、お気軽に当院に相談下さい。

INOCA(冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血)

INOCAとは、Ischemia with Non-Obstructive Coronary Artery diseaseの略で、心臓カテーテル検査や心臓CTで目視できる冠動脈(心臓を栄養する血管)に閉塞や狭窄がない狭心症のことです。INOCAの患者さんは、普段から胸部圧迫感や息切れなどの症状に悩まされているにも関わらず、検査をしても冠動脈に狭窄が見つからないため正常と診断されてしまうことがあります。INOCAの原因としては、以下のように冠微小血管障害と冠攣縮性狭心症が含まれます。


1、微小血管障害:もともと心臓には目に見える心外膜血管の他に、微小冠動脈が多数存在することが知られています。この目には見えない血管の血流障害(冠微小循環障害)によって狭心症をきたす病気です。
2、冠攣縮性狭心症:冠動脈が一過性に痙攣を起こすことで狭窄や閉塞をきたします。
微小血管障害とは微小冠動脈が原因で起こる狭心症を意味しており、典型的な胸部圧迫感だけではなく、息苦しさや吐き気、喉、あご、背中という広範囲に違和感や圧迫感が起こることも多く、その持続時間が通常の狭心症よりも長く、10分〜1時間以上と長いのが特徴です。男女問わず幅広い年齢層に起こり得ますが、特に40代後半〜50代の更年期世代の女性に多発すると言われています。こうした状態になる原因は以下の3つと言われています。 ① 微小血管が発作的に収縮して痙攣(けいれん)を起こす ② 微小血管が拡張できないなどの機能障害 ③ 筋肉に対して微小血管自体が少ないケース
微小冠動脈は心臓の動脈の約95%を占めますが、0.3㎜以下の細い血管は心臓カテーテル検査の冠動脈造影などに映らないので、通常の冠動脈造影のみでは微小血管障害は見逃されやすいといった特徴があります。


冠攣縮性狭心症とは、冠動脈が一時的に痙攣することで、冠動脈が収縮し血流が悪くなることによって冠動脈の内腔が一時的に狭くなる、もしくは閉塞して数秒から数分程度の胸痛を引き起こす狭心症です。喫煙・飲酒・脂質異常症・ストレスなども原因とされており、動脈硬化との関連性もあると言われています。症状の特徴としては、夜間や早朝の安静時や朝方、もしくは早朝労作時に胸の中心あたりに胸痛が起こりやすい事、安静にしていても動悸・息切れがする事、圧迫感がある事、冷や汗が出る事等があげられます。


INOCAの診断ですが、胸部症状で御相談いただいた場合、狭心症以外の心疾患の有無の精査や、心疾患以外の胸部症状を発症する疾患(肺疾患や消化器疾患等)の可能性も考え対応します。 そのうえで、明らかな原因が無ければINOCAの可能性を考えます。
INOCAの検査は入院での心臓カテーテル検査となります。心臓カテーテル検査で薬剤による負荷検査を行い、冠動脈の痙攣が起こるか、胸痛や心電図の変化が誘発されるかを調べます。同時に冠動脈に柔らかいワイヤーを入れて、微小冠動脈の機能評価を行います。


日本冠微小循環研究会HPより引用改変


冠動脈に有意狭窄や閉塞、機能障害を呈さない方に比較してINOCAの予後は悪いとされており、特に微小循環障害と冠攣縮性狭心症を合併した患者の予後は不良であることが報告されています。その為、しっかりと診断を付ける事が大事であると考えられます。

治療方法は薬物療法、生活習慣の改善、危険因子の管理となりますが、疾患としての確立した治療方法はありません。患者毎に治療効果に違いがある事からも、医師と患者で相談しながら治療を進めてまいります。

MINOCA(非閉塞性冠動脈疾患に伴う心筋梗塞)

MINOCAとはMyocardial Infarction with Non-Obstructive Coronary Arteryの略であり、心筋梗塞の徴候がありながら、冠動脈造影検査で冠動脈に有意な狭窄(通常、50%以上の狭窄)が認められない病態です。
MINOCAの原因としては、冠動脈プラーク破綻・びらん、冠攣縮、冠微小循環障害 (CMD)、冠微小血管攣縮、特発性冠動脈解離 、冠動脈に及ぶ大動脈解離、冠動脈塞栓症、冠動脈slow flowなどがあげられます。前述したINOCAの原因であった、微小循環障害や冠攣縮性狭心症がMINOCAの原因の一つであるといわれています。
MINOCAの診断には、心筋梗塞である事がしっかりと診断されている事、それに加え心筋障害を生じる冠動脈疾患以外の心疾患が除外されている事が重要となります。
その上で、MINOCAの原因としての冠攣縮や微小循環障害の診断には、まずMINOCAを生じうる他の病態を除外することが必要となります。冠攣縮に伴うMINOCAを発症した場合にはMINOCAが冠攣縮の初発であることも少なくないと言われており、多くの場合で冠攣縮薬物誘発試験を必要とします。

冠攣縮薬物誘発試験の検査方法は、前述したINOCAでのカテーテル検査方法となり、治療方法は前述したINOCAに含まれていた冠攣縮性狭心症と同様の治療となります。
薬物療法を始め、生活習慣の改善、危険因子の管理を、医師と患者で相談しながら進めてまいります。